ミニマムに。軽やかに。

ミニマムに暮らしたいみもざの日常をつづっています。

ミッテランの帽子 - Le Chapeau de Mitterrand

amazon.co.jpより


表紙の装丁に惹かれて読んだ本。

 

時代は1986年、仏大統領ミッテランの帽子を手にした4人が経験するミラクルを紡いだ物語。

 

ちょうど私自身が産まれた年ということもあり、親しみと興味を覚えながら読み進めていました。

 

パソコンが普及する前で、メールも携帯もない時代のアナログなフランスの生活を垣間見ることができます。そして、フランス文学独特の(?)食べ物や香水への描写がとても細かい。ワインはどれを飲んで、どんなシーフードをどのように食べて、など。私はワインの知識は全くないので文字面をそのまま読み進めていましたが、詳しい人にはより面白い部分なのかなと想像しています。

 

帽子を手にした人はそれぞれにミラクルを経験します。ミラクルと言っても、その人本来が持っていた思考、能力や力に気づきを与え、実行するきっかけを帽子が作っているような雰囲気です。

 

なので、ある意味帽子が無くてもあり得たかもしれず、本人の意識次第なところはあるかもしれません。実際、帽子が彼らの手を離れた後も4人は順調に人生を歩み続けています。

 

けれど、やはり意識を変えるには、きっかけというのはとても大事で、この物語のように上質なフェルト帽というのは何やら不思議なパワーを持っていそうです。このアイテム選びがおしゃれでフランスらしいですね。4人が揃いも揃って帽子が運気を運んでくれたと思う気持ちもとてもわかります。逆にいうと帽子に意味付けをした4人が帽子に不思議な力を宿したとも取れるかも?

 

個人的にはファニーに起きたミラクルが一番爽快で、帽子との別れも潔くて素敵だなと思いました。

 

エピローグで大統領が帽子を思った以上に本気で探し回っていたことが描かれているのには、少し残念な気持ちになりました笑。また戻ってくるさと自信と余裕を持って見守っていて欲しかったです。ダニエルが自ら申し出て、大統領へ返してくれて良かった…。帽子を渡す時の大統領とダニエルの会話はこれまでの経緯を全て知っていたと思うとゾッとしますが、後書きを読んでその頃のミッテラン氏の状況を知ると帽子にすがりたい気持ちも分かるような気がしました。

 

というのも、ちょうど物語でミッテラン大統領が帽子を無くし、ふたたび手にするまでの2年間はミッテラン政権にとって激動の2年間だったそうです(1986年に議会選挙で大敗し大統領を一度退き、1988年に大統領に返り咲く)。

 

ミッテランの愛人とその娘さんは後書きを読んだ後に後から探し、ヴェネチアミッテラン氏の後ろを歩く女性二人のことですね。見つけられてちょっと嬉しいです。

 

正直そこまで好みの小説ではなかったけれど、時代背景やフランス文化、思想の知識が詳しい人ほどこの小説の面白みや深みを感じることができそうだなと思いました。

 

そして何はともあれプチタイムトラベル&旅行気分を味わえた作品です。