吉田篤弘さんの作品はどれもどこか捉えどころがなく、でもほっこりする物語が多いのがなんともいえず好きなのですが『中庭のオレンジ』は特にそれを感じました。
独立した21の短編の冒頭、間、最後に図書館に埋められたオレンジの木の物語が紡がれていて、短編の中でもこの物語の特別感が際立っていました。
それこそ本からふんわりオレンジの香りが漂ってきそう。
他の短編もこころがじんわりあたたかくなるような素敵なものばかりで、寝る前に1編をすこしずつ、すこしずつ宝物を大切するように読みたくなるような作品です。快適な睡眠へもうってつけでした♪
個人的には夢の中で数えられる羊たちの物語がないものねだりの人間にそっくりでもあり、かわいらしくもあり微笑ましかったです。
著者のあとがきにの言葉が印象的でした:
大人になると余計な知恵がついてしまい、つい答えや終わりのようなものをもとめてしまいます。でも、・・・自分の子供の頃の読書にら、答えも終わりもなく、そこにあるのは、理屈を超えた「たのしい」「ふしぎ」「こわい」「かなしい」「さみしい」でした。
この短編集がいつも以上にふんわり、とりとめのないように感じた理由がわかった気がします。
確かに大人になると、小説にもどんな著者のメッセージが込められているのだろうとか、ここの表現にはどんな登場人物の心理を含めたかったのだろう、ここは意図が分からないけどどうゆうことなのだろうなど考えながら読んでしまいます。もちろんそれはそれで、楽しいし理解が深まって面白いのですが、何かしかの答えを求めてしまいがちでした。
それがこの小説は、なんだかよくわからない、つかみどころがないところがあるけれど、それはそれでいいなと思えるような、答えを突き詰めずに不思議な余韻を楽しみたいな、という気にさせてくれるのです。
著者の狙い通り純粋に、メッセージや理由を深く追求せずに読むこと自体を大切にできた、ある意味『本当の読書』を久しぶりに体験できたのでした。